パッサカリアとフーガ

 パッサカリア・・・思い出しますね。あれはまだ大分でしか演奏していませんでしたね。
 青山さんは「しばらくおあずけ」と言いますが、数多い作品の中でも名編曲だったと思いますよ。今も『魔弾の射手』を練習させてもらっていますが、何より古典は楽団の合奏力を大きく進化させます。多分、和声進行が自然で、ブレスの位置・音量のバランス・アーティキュレーション等、基礎的な課題を確実にクリアすることで、美しい響きが醸し出されるからだと思います。指導者が持っている音楽理論を実践していく良い機会にもなると思います。パッサカリアという形をいかに表現したらよいか、そして後半のフーガとはどこが違い、同じテーマをどのように演奏していくのか・・・。
 私が『パッサカリアとフーガ』を演奏したのは昨年でしたが、あの時のプログラムの中では最も練習が充実した曲でした。
 懲りずにまた書いてくださいね。次はブゾーニ編曲の『シャコンヌ』をリクエストします。
 書きたいなと思っても、書くにはちょっと覚悟が必要な作曲家・・・私の場合はワーグナーとブルックナーでしょうか。ワーグナーとバッハは共通する難しさがありますね。お互い頑張りましょう。

不協和音

なるほど!そのような苦労がおありだったんですね! 聞いてみるもんです。
先生の作品を吹くことはありますが、アレンジ上の工夫した点についてなどは、そう多くは聞く機会がありませんから、とても興味深いです。

ふと思ったのですが、例えばこのように練られた作品を運よく手にすることが出来たとしても、書き手が意図するように、スコアを読み込めてそれを演奏者に伝えられる人は、もしかするとそんなに多くないのかもしれません。
私がもし楽団の指揮をしていたなら、書いたご本人に指導に来てもらいたいものです。    単純に手っ取り早いですからね。
そうすれば、「ああ、そこはそのように作ってあるのか。」とか「こんな風に指示をすれば演奏者にわかりやすいのか。」とその場で色々学べます。

これをもし思い込みでやってしまうとせっかく10出せる効果が、5、6くらいに半減してしまうこともあるかもしれません。 不協和音を多く含んだ曲は、バランスが命だと思います。
結構”不協和音”と聞くと、汚くてぶつけたような破裂音になりがちなんですが、作曲家はいろんな効果を狙っています。 だいぶ昔、ウィーンフィルが来日した時のプログラムにシェーンベルク(20世紀の作曲家)の作品があったのですが、初めてシェーンベルクの作品が美しいと思いました。 それは、なんといっても不協和音が美しく響いていたからです。
あの絶妙なバランス、素晴らしかったです。 本当はこういう音楽だったのか、と思いました。
楽譜でなくとも同じことで、新しい商品が売られていてその使い方が分からなかったら、店員さんに聞きますよね?(私は結構すぐ聞く方です。) 但しちゃんとそれを”よく知っているしかるべき人”かどうかを判断しますよ!

また長くなってしまいましたけど、私の苦労した曲はバロックものです。
ヴィヴァルディの調和の霊感と、数年前にやったバッハのパッサカリアとフーガです。
なんといってもバッハは難しいです! オルガンは一人で演奏するものですから、いくら声部が多いといっても、場所によって5,6です。 無駄な創作は加えませんからどこかがユニゾンになるのですが、曲中の働きに合った楽器替えをしなければいけませんし、オクターヴのユニゾンにした時、別の声部の動きとすごく音がぶつかる(不協)のです。
フレーズも、メンデルスゾーンやチャイコフスキーのようにタテに気持ちよくスパッ!と切れてくれません。 終わりかけにどこかのフレーズ始まりが顔を出すといった意地悪なつくりで、短いところは1小節半ずつ考えて進めなければいけませんでした。
(あの時の辛さを思い出してしまいました・・・。 まだしばらくバッハはおあずけに・・・。)

タラス・ブーリバ

 「タラス・ブーリバ」にきましたか。きつかった思いが強い曲です。
 ヤナーチェックって、増4度・減5度の進行が異様に多いと思いませんか?特にアレンジした第3曲の「タラス・ブーリバの死」は、メロディーにもリズムにも、増4度に進行した後に完全5度に解決するというパターンが多くて苦労しました。
 できるだけ響きが良くなるようにアレンジしたいんですが、とにかく増4度は響かない・・・。解決するはずの完全音程まで響きが悪くなってしまいます。
 工夫したのはバランスです。例えばFis→C→Gと進行するとします。真ん中のCのバランスを少し落として、Fis→Gの半音進行を強調するようにしました。ヤナーチェックは、これが単音で進行するわけではなく、それぞれ和声がくっついているのが面倒ですね。
 でも、作曲家一人一人に、面倒だったり美しかったり・・・色々な特徴があるからアレンジするのも楽しくなるわけですよね。良かれと思って書いても、実際音を出してみると思ったように響かなかったり・・・逆に悩みながら書いた曲が美しく響いた時の喜びはたまりませんね。
 青山さんが一番苦労した曲は何でしたか?

つづき

転調は西洋音楽では大事な要素のひとつですよね.
鍵盤楽器の発達とともに重要なアイテムとなったと思います。
今のような12平均律という方法が確立する前は、いろんな調律のやり方があったため、相性の悪い転調をしてしまうととんでもない”うなり”が生じて、とても聞けるものではなかったそうです。 その代わり相性の良い転調だと、平均律では聴けない美しい響きがするそうです。
ですから鍵盤楽器の方が転調に対して神経を使っていたのではないか、と思います。
時代と共に、そしていろんな楽器が発達してくると融通がきくようになり、それと同時に転調の捉え方が変わってきたと思います。
意図的に調からの脱出?を図った作曲家(ワーグナーやシェーンベルクなど)も現れましたし。

話がちょっと反れましたが、特にオーケストラから管楽器へのアレンジでは、当然使用楽器も異なります。 弦楽器でよく響く調を設定していたり、それが曲を表現する上でとても重要なウエイトを占めているかどうか、を見極めますよね。
そして次に管楽器編成で原調が相応しいかどうか、多少上げ下げしても、或いはした方が表現しやすいのかどうかを考えます。
”だったん人(ポロヴェツ人)の踊り”の時は、全体がメドレーのような構成をしていました。
そうして、各セクションが近親調でしっかりつないでいたので、その特徴を活かすべきだと思い、全体を長二度下げてアレンジしました。 クラリネットが大変でしたけど、全体の統一は取れたと思います。

ところで、”運命の力”序曲、私も高校1年の頃に吹いた記憶があります。
その時はそれどこではなく、吹くので精一杯でしたけれど、おそらく吹きながら「なんじゃ?」とは思ったはずです。 そんなおかしな転調でしたか。 それは気づかないはずないですから。
では、次のアレンジは決まりですね!?
そうそうヤナーチェク、先生のアレンジされたタラスブーリバはとても面白かったです。
独特の響きがたまりません。曲には興味がありますが、アレンジも難しそうですよね。
何か苦労した点や、発見したことがあったら教えて下さい。

ねじれた転調

 ダッタン人…懐かしいですね。青山さんにダッタン人のアレンジを依頼したのは、大分ウィンドフィルハーモニーの演奏会のプログラムに入ったからでした。私は、『タラス・ブーリバ』のアレンジに悪戦苦闘してました。
 ダッタン人は、ずいぶん前に指揮した時、不思議な転調に頭をひねりました。それは、最初に半音上げてあり、中間部で原調になるというもので、何だかねじれてしまったように感じました。
 原調だと、曲のテンポから考えてかなり演奏が困難になりますし、全体を長2度下げる方法は、最高のアイデアだと思います。
 同じように、ねじれた転調になっていてアレンジし直したいと考えている曲がもう一つあります。「運命の力」序曲です。e-mollからE-Durというのが原曲です。これも原調だと厳しいですね。基本的に半音上げる方法でいいと思うのですが、私の知っている楽譜はd-mollからF-Durになっていました。同主調の転調が平行調に変わるなんて、ちょっとびっくりしませんか?
 移調してアレンジするのは、やむを得ない場合がありますが、ねじれ転調はいくらなんでも・・・と思ってしまいます。

もろもろ

いろいろ悩みますよね。
パーカッション、ハープなど特殊楽器が出てきた時には色々考えますが、不必要な追加はしません。 追加する時は常に曲の響きに相応しいかどうかを第一に考えます。
私に回ってくるお仕事の中には、パーカスパートを丸ごと作らなくてはいけない事もあるのですけど、これが結構難しく、机やモノをトコトコ叩いて決めたりします。

調の選択も悩むところです。
冒頭部分だけでなく、全曲を通しての転調も含めて考えなくてはいけません。
”だったん人(ポロヴェツ人)の踊り”の時は、頻繁に調が変わるので苦労しました。
作曲者のボロディンは気楽なもんで、クラリネットのA、Bb管をしょっちゅうとっかえひっかえしていました。 でもアレンジでは弦楽器分も木管にかかってきますし、全員がA管を持っている楽団はほとんどありません。 幸い低音域の楽器が高めに書かれていたので、思い切って長二度下げて対応しました。 結果的にクラの運指は難しくなってしまいましたが、メドレーになっているので調の統一は出来ました。

大事なメロディーでいきなりオクターヴ上げられては、かないませんね。
そんなにいろんな要素が集まるならば、いっそアレンジしてしまえ~!という気にもなりますね。 ましてや、小節が足らないなんて信じられません。

転調も大事です。 アレンジはしていませんが、分かりやすくて上手い使い方だな、と思うのはラヴェルの”ボレロ”です。 一つのテーマをいろんな楽器に演奏させて、時には平行にハモらせながら盛り上げていき、もうネタが尽きたか?というところと盛り上がりのいい具合の時に
バッと転調してしまう。 さすがですね。 曲自体はそんなに趣味ではないのですが、よく出来ている作品だな、と思います。
もう一つスゴイ点があって、一つのテーマの中で小節ごとのリズムが全て違うのです。 もう少しで同じになるところをタイの有り無しで乗り切ったところもありますが、とにかく15,6小節一つもリズムが同じ”小節”がないのは驚きです。
先生の思い出深い!?アレンジは何ですか?